胃と漢方
親孝行の生薬
今日は親孝行と「人参湯」のお話です。
漢方で使われる「人参」は、スーパーで見かける野菜のニンジンとは別の植物で、薬用人参(オタネニンジン)の根を用います。
人参は古くから大切な生薬として用いられてきましたが、栽培技術が確立する以前は野生のものに頼るしかなく、日本でも非常に貴重な生薬でした。
そもそも、なぜ「人参」という名前なのでしょうか。
それは、枝分かれした根の形が、まるで手足のある人の姿のように見えることから「人参」と呼ばれるようになったといわれています。
朝鮮人参、高麗人参とも呼ばれる薬用人参には、昔からさまざまな逸話が残されています。
山奥に自生する人参はなかなか見つけることができず、「人の目を避けるように自ら移動する」「親孝行者や正直者にしか見つけることができない」といった伝説まで生まれました。
それほど昔の人々にとって、人参は貴重で特別な生薬だったのでしょう。
そんな人参を含む人参湯は、体力が低下し、手足やお腹が冷えやすく、胃腸の働きが弱っている方に用いられる漢方薬です。
胃腸虚弱のほか、胃痛、腹痛、下痢、嘔吐などに用いられ、特に「冷えると胃腸の調子が悪くなる」という方に適しています。
同じように胃腸の不調に使われる漢方でも、症状によって選ぶ処方は異なります。
胃腸が弱く、食欲不振や胃もたれ、みぞおちのつかえ、疲れやすさなどが目立つ場合には六君子湯がよく用いられます。
また、胃痛や腹痛があり、胸やけやげっぷなどを伴う場合には安中散が選択肢になります。
「食欲がない」「胃が痛い」「胃もたれがする」といっても、漢方では冷えが強いのか、胃の働きが低下しているのか、胸やけや痛みが目立つのかなどを見ながら処方を選びます。
自分の胃腸症状にはどの漢方が合うのか迷ったときは、体質も含めて選ぶことが大切です。
若返りのホルモン
今回は、「空腹ホルモン」とも呼ばれるグレリンについてのお話です。
お腹が空いてくると「グーッ」と鳴ることがありますよね。
グレリンは主に胃から分泌され、空腹時に血中濃度が高くなるホルモンです。食欲を高める働きのほか、成長ホルモンの分泌にも関わっていることから、健康や加齢との関係についても研究されています。
そして、このグレリンとの関係で注目されている漢方薬が六君子湯です。
六君子湯には、グレリンの分泌を促したり、グレリンが受容体に作用しやすくしたりするなど、グレリンの働きをさまざまな方向から高める作用が報告されています。
六君子湯に含まれる複数の生薬成分がそれぞれ異なる働きをすることで、食欲や胃腸の働きを支えていると考えられています。
そもそも六君子湯は、胃腸が弱く、食欲がない、胃もたれがする、みぞおちがつかえる、疲れやすいといった方によく用いられる漢方薬です。
「最近なんとなく食欲がない」「少し食べただけでお腹いっぱいになる」「胃がもたれて食事が進まない」といった症状は、季節にかかわらず、ストレスや疲労、加齢などさまざまなきっかけで起こります。
六君子湯は、単に食欲を刺激するというより、弱った胃腸の働きを整えながら、食欲の回復を助けることを目的として使われる漢方です。
食欲不振や胃もたれが続いている方は、自分の体質や症状に合っているかを確認しながら、漢方という選択肢を考えてみるのもよいでしょう。
お腹の痛みには安中散
食べ過ぎや飲み過ぎなどで胃に負担がかかると、胸やけや胃もたれ、胃痛、腹痛などの不調が起こることがあります。
このような胃の痛みや胸やけを伴う胃腸の不調に用いられる漢方が「安中散」です。
安中散は、比較的体力がなく、腹部に力がない方で、胃痛や腹痛があり、ときに胸やけ、げっぷ、胃もたれ、食欲不振、吐き気などを伴う場合に適しています。
神経性胃炎や慢性胃炎、胃腸虚弱などに用いられ、特に胃が冷えると痛みや不調が出やすい方に向いている漢方です。
安中散を特徴づける生薬の一つが「延胡索(えんごさく)」です。
延胡索は、漢方では痛みを和らげる目的で用いられる生薬で、安中散では胃痛や腹痛など「痛み」を伴う胃の不調に重要な役割を担っています。
また、「桂皮(けいひ)」や「良姜(りょうきょう)」、「茴香(ういきょう)」など、身体や胃腸を温める方向に働く生薬も配合されています。
そのため、冷たいものを摂ると胃が痛くなる、胃が冷える感じがする、といった「冷え」を伴う胃の不調にもよく用いられます。
同じ胃痛や胃もたれでも、漢方では症状だけでなく体質によって選ぶ処方が変わります。
安中散は、胃が弱く、冷えや胃痛、胸やけ、げっぷなどが気になる方に検討したい漢方の一つです。
六君子湯
六君子湯は、漢方でいう「脾気虚(ひききょ)」に用いられる代表的な漢方薬です。
少し難しい言葉ですが、分かりやすく言えば、胃腸の働きが弱り、食欲がなく、疲れやすくなっている状態です。
六君子湯は、人参、白朮、茯苓、半夏、陳皮、甘草、生姜、大棗の8種類の生薬から構成されています。
処方の成り立ちをみてみると、人参・白朮・茯苓・甘草からなる「四君子湯」を基本に、半夏と陳皮などを組み合わせた処方です。
四君子湯は、胃腸が弱く、気力や体力が低下した方に用いられる基本的な処方の一つ。
そこに半夏や陳皮などが加わることで、胃にたまった余分な水分や、胃もたれ、みぞおちのつかえなどにも対応しやすくなっています。
漢方では、食べ物を消化し、そこから身体を動かすための「気」を作り出す働きを「脾(ひ)」と考えます。
この働きが弱った状態が「脾気虚」です。食欲がない、少し食べただけでお腹いっぱいになる、胃がもたれる、疲れやすいといった症状がみられます。
さらに六君子湯が向く方では、「胃部振水音(いぶしんすいおん)」がみられることがあります。
これは、身体を動かしたときや胃のあたりを軽く叩いたときに、「チャプチャプ」と水が揺れるような音を感じる状態です。
漢方では、胃の働きが低下して余分な水分が停滞している一つの目安として考えます。
冷たいものや水分を一度に多く摂ったり、食べ過ぎたりすると、もともと胃腸が弱い方では胃もたれや食欲不振が起こりやすくなることがあります。
胃腸の働きが低下すると、さらに食事が進まなくなり、疲れやすくなるという悪循環につながることもあります。
そんな「胃腸が弱って食べられない」「胃がもたれて食欲がわかない」「みぞおちがつかえる」「食欲がなく疲れやすい」といった方に用いられるのが六君子湯です。
六君子湯は、胃炎、胃腸虚弱、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐などに用いられます。
同じ「胃の不調」でも、その方の症状や体質によって適した漢方は異なりますので、「自分には六君子湯が合うのかな?」と迷われたときは、お気軽に薬剤師へご相談ください。
グレリンと六君子湯
「グレリン」というホルモンをご存じでしょうか。
グレリンは主に胃から分泌されるペプチドホルモンで、成長ホルモンの分泌を促すほか、食欲や胃腸の働きにも深く関わっています。
このグレリンとの関係で注目されている漢方薬が、以前にもご紹介した六君子湯(りっくんしとう)です。
六君子湯は、胃腸が弱く、食欲がない、みぞおちがつかえる、疲れやすいといった方に用いられ、古くから食欲不振や胃腸虚弱などに使われてきました。
近年の研究では、六君子湯がグレリンの働きをさまざまな方向から高めることが分かってきました。
グレリンの分泌低下を抑える作用のほか、グレリンが受容体に作用しやすくする働きなども報告されています。
そのメカニズムの一つとして研究されているのが「セロトニン」との関係です。
セロトニンの一部の受容体が刺激されると、グレリンの分泌や食欲が抑えられることがあります。
六君子湯に含まれる生薬成分の中には、このセロトニン受容体の働きを抑えることで、低下したグレリンの働きを助けるものがあることが研究で示されています。
こうした研究から、六君子湯がなぜ食欲不振や胃もたれなど、胃腸の働きが低下した方に用いられてきたのか、その作用の一端が現代医学の視点からも明らかになってきています。
病気や治療に伴う食欲低下についても六君子湯とグレリンの関係が研究されています。
ただし、このような場合は病気や治療内容によって対応が異なりますので、自己判断ではなく医師や薬剤師に相談することが大切です。
橙の効能
「吾妹子に(わぎもこに)
逢わず久しも(あわずひさしも)
うましもの
阿倍橘の(あべたちばなの)
苔生すまでに(こけむすまでに)」
万葉集には、このような歌があります。
その意味は、「愛しい人に逢わなくなって、ずいぶん長い時がたった。あのすばらしい阿倍橘に苔が生えるほどに」といったものです。
ここで登場する「阿倍橘」がどの柑橘を指していたのかについては諸説ありますが、現在のダイダイ(橙)にあたるとする説もあります。
ダイダイは、熟した果実がすぐに落ちず、翌年以降も木に残ることがあります。
その姿から「代々」に通じ、家が代々続く縁起のよい果実として、現在でも鏡餅や正月飾りなどに使われています。
そして、このダイダイなどの未熟な果実を用いる生薬が「枳実(キジツ)」です。
漢方では、気の滞りを整え、みぞおちのつかえやお腹の張りなどを改善する目的で用いられます。
枳実が配合されている代表的な漢方の一つが四逆散です。
四逆散は、胸やお腹に重苦しさがあり、胃炎、胃痛、腹痛などがみられる場合に用いられます。
普段は何気なく見ているダイダイも、万葉集の時代から人々の暮らしに登場し、現在では漢方に使われる生薬にもつながっています。
植物の歴史をたどってみると、漢方が少し身近に感じられるのではないでしょうか。
六君子湯
今日は六君子湯についてご紹介します。
六君子湯は、胃腸が弱って食欲が落ちている方に用いられる代表的な漢方薬です。
構成生薬は、人参・白朮(または蒼朮)・茯苓・半夏・陳皮・甘草・生姜・大棗の8種類。
胃腸が弱く、気力や体力が低下した方に用いられる「四君子湯」を基本に、半夏や陳皮などが加わった処方です。
人参・白朮・茯苓・甘草は、漢方では胃腸の働きを助け、低下した「気」を補うために用いられます。
半夏と陳皮は、胃のつかえや吐き気、胃に停滞した余分な「水」などを整える役割を担います。
さらに生姜と大棗が加わり、胃腸を整えながら処方全体の働きを支えています。
六君子湯は、次のような方によく用いられます。
・胃腸が弱い
・食欲がない
・少し食べただけで胃がもたれる
・みぞおちがつかえる感じがする
・疲れやすく、体力が低下している
・手足が冷えやすい
漢方では、このような胃腸の働きが弱っている状態を「脾気虚(ひききょ)」と考えます。
また、胃腸の働きが低下すると、身体の「水」をうまく巡らせることができず、胃の中に余分な水分が停滞することがあります。
その目安の一つが「胃部振水音(いぶしんすいおん)」です。
身体を動かしたときや胃のあたりを軽く叩いたときに、「チャプチャプ」と水が揺れるような音がする状態で、六君子湯を選ぶ際の参考になることがあります。
冷たいものや水分を一度に多く摂ったり、食べ過ぎたりすると、もともと胃腸が弱い方では胃もたれや食欲不振が起こりやすくなります。
胃腸が弱ることでさらに食事が進まず、疲れやすくなるという悪循環につながることもあります。
六君子湯は、こうした「胃腸が弱って食べられない」「胃がもたれる」「みぞおちがつかえる」「食欲がなく疲れやすい」といった方に適した漢方薬です。
胃炎、胃腸虚弱、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐などにも用いられます。
単に胃の症状を抑えるだけでなく、その方の胃腸の弱りや体質をみながら選ぶのが漢方の特徴です。
食欲不振や胃もたれが続いている方は、お気軽にご相談ください。
















