風邪と漢方

ウイルスや菌に負けない免疫力

風邪やウイルスに負けない身体づくり

新型コロナウイルスをはじめ、感染症についてはいろいろな情報が飛び交い、中には「本当にそうなの?」と首をかしげたくなるような、科学的根拠のはっきりしない情報もあります。誤った情報に惑わされないようにしたいですね。

私たちにできることは、十分な睡眠やバランスのよい食事、適度な運動などで日頃から体調を整え、手洗いや換気、必要に応じたワクチンなど基本的な感染対策を行うことです。

「免疫力を高めれば絶対に風邪をひかない」というほど単純ではありませんが、疲労や睡眠不足、冷えなどで体調を崩さないようにすることは大切です。

特に、手足の冷えが非常に強く、冷えると頭痛や下腹部痛、腰痛などが出やすい方に用いられる漢方に、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)があります。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、桂枝湯を基本とした処方に当帰や呉茱萸などを加え、漢方では身体の芯から冷えて血の巡りが悪くなっているタイプに用いられます。

ただし、当帰四逆加呉茱萸生姜湯そのものに「風邪予防」や「免疫力を高める」という効能が認められているわけではありません。あくまで、強い冷えやしもやけ、頭痛、下腹部痛、腰痛など、その方の体質や症状に合わせて使用する漢方薬です。

インフルエンザについて研究されている漢方には、麻黄湯(まおうとう)があります。

麻黄湯は、体力が充実していて、風邪のひき始めに強い寒気や発熱、頭痛、身体の節々の痛みがあり、まだ汗をかいていない方に用いられる漢方薬です。

麻黄湯とインフルエンザについては臨床研究もあり、A型インフルエンザの子ども60人を対象に、麻黄湯と抗インフルエンザ薬のオセルタミビルを比較した研究では、麻黄湯を服用したグループで解熱までの時間が短かったという報告があります。

一方で、対象人数の少ない研究であり、これだけで「麻黄湯は抗ウイルス薬と同等」と一律に考えることはできません。インフルエンザが疑われる場合には、症状や年齢、基礎疾患などを考慮し、必要に応じて医療機関を受診することが大切です。

風邪の漢方|実証と虚証

風邪の生薬選び

1995年の「日本東洋医学雑誌」に、発熱のある風邪に対して、漢方薬と西洋薬の解熱薬を比較した興味深い臨床報告があります。

初診時に37℃以上の発熱があった80人を対象に調べたところ、発熱が続いた期間は、解熱薬を使ったグループが平均2.6日、症状や体質に合わせて漢方薬を使用したグループが平均1.5日でした。また、風邪症状全体が続いた期間も漢方薬群の方が短かったと報告されています。

ただし、1995年の比較的小規模な研究であり、現在使われているすべての解熱薬と漢方薬を比較した研究というわけではありません。それでも、風邪では単に熱を下げるだけではなく、その人の症状や体質に合わせて治療するという漢方の考え方を知るうえで興味深い報告です。

風邪の漢方では、体質を「実証(じっしょう)」と「虚証(きょしょう)」に分けて考えることがあります。

比較的体力があり、症状が強く現れる方を「実証」、体力が乏しく、胃腸も弱く疲れやすい方を「虚証」と考え、それぞれの状態に合った漢方薬を選びます。

  • 葛根湯(かっこんとう): 体力が中等度以上で、汗がまだ出ていない風邪の初期に用います。寒気、頭痛、首や肩のこりなどがある場合に代表的な漢方です。麻黄が配合されているため、動悸、不眠、発汗などが現れることがあり、体力が低下している方では注意が必要です。
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  • 桂枝湯(けいしとう): 体力が虚弱で、風邪の初期から汗が出ている方に用います。「寒気はするけれど葛根湯を飲むほど体力がない」という方に使われる代表的な漢方です。
  • 香蘇散(こうそさん): 体力が虚弱で、胃腸が弱く、神経過敏で気分もすぐれない方の風邪の初期に用いられます。麻黄を含まないため、葛根湯や麻黄湯が合いにくい虚弱な方に選ばれることがあります。
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つまり、「風邪には葛根湯」と決まっているわけではありません。体力があるのか、弱っているのか、汗が出ているのか、寒気が強いのかなどによって、適する漢方薬は変わるのです。

風邪のウイルス

風邪をひいた人とウイルス

冬の空気はとても乾燥しています。乾燥した環境では鼻やのどの粘膜も乾きやすくなり、ウイルスなどを外へ運び出す粘膜の防御機能が低下しやすくなります。

実際、低い湿度では、インフルエンザなど一部の呼吸器ウイルスが広がりやすくなることや、気道の防御機能が低下することが研究されています。

オリーブ薬局にも冬になると風邪の患者さんがたくさんいらっしゃいます。

いわゆる「風邪」の多くはウイルスによるもので、一般的な風邪のウイルスそのものを直接退治する薬は限られています。そのため、西洋医学では発熱、鼻水、咳、のどの痛みなど、それぞれの症状を和らげる治療が中心になります。

ちなみに、抗生物質・抗菌薬は細菌に対して使う薬なので、通常のウイルス性の風邪には効きません。細菌感染の合併が疑われる場合などに使用されます。

漢方医学では、風邪のひき始めを「風邪(ふうじゃ)」や「寒邪(かんじゃ)」などの邪気が身体の表面から入り込んだ状態として捉えます。

これは現代医学でいう「身体が冷えるとウイルスが発生する」という意味ではありません。寒気、発熱、発汗、頭痛などの身体の反応を観察し、その状態に合わせて身体を温めたり、発汗を助けたりする漢方薬を使うという考え方です。

発熱も感染に対する身体の防御反応の一つです。そのため、漢方では熱の数字だけを見るのではなく、寒気があるのか、汗が出ているのか、身体の節々が痛むのかといった症状を細かくみながら処方を選びます。

風邪をひいたときには、十分な休養と水分補給を基本に、身体を冷やしすぎないことも大切です。

漢方薬も、症状、汗の有無、痛みの場所、風邪のひき始めなのか治りかけなのかなどによって使い分けます。
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風邪の漢方

風邪でしんどい人

「風邪の漢方薬といえば?」と聞かれると、真っ先に葛根湯を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

確かに葛根湯は風邪の代表的な漢方薬ですが、すべての人の風邪に葛根湯が合うわけではありません。

葛根湯には「麻黄(マオウ)」という生薬が配合されています。体力が中等度以上で、風邪のひき始めに寒気が強く、まだ汗をかいていない方にはよく用いられる一方、体力が衰えている方では負担になる場合があります。

麻黄にはエフェドリン類が含まれ、交感神経を刺激する作用があります。そのため、体質によっては動悸、発汗、不眠などが現れることがあります。

漢方的には、麻黄は身体の表面にある「邪」を発汗によって外へ追い出す方向に働く生薬と考えられています。

では、体力がなく、「葛根湯はちょっと強そう」という方には何を使うのでしょうか。

そこで登場するのが、桂枝湯(けいしとう)です。

桂枝湯は、桂皮・芍薬・生姜・大棗・甘草の5種類の生薬からできています。麻黄は含まれていません。

桂枝湯は、体力が虚弱で、風邪の初期から自然に汗が出ている方に用いる漢方薬です。寒気や頭痛、発熱などがあるものの、葛根湯が向く方ほど体力が充実していない場合に使われます。

漢方の古典では、桂枝湯を服用したあとに温かいおかゆなどをとり、身体を冷やさず休むという養生法も記されています。薬だけではなく、身体を休ませ、温かくして回復を助けるという考え方ですね。

桂枝湯は比較的シンプルな処方ですが、ここから多くの漢方薬が発展しています。

桂枝湯の補足情報

  • 桂枝湯の芍薬を増量し、膠飴(こうい)を加えた処方が、虚弱な小児の腹痛などに用いられる小建中湯です。
  • 体力が弱く、風邪をひきやすい方では、その時の症状や体質によって桂枝湯や香蘇散などを使い分けます。
  • 妊娠中に風邪の漢方を使用する場合は、自己判断で服用せず、医師や薬剤師に相談して選ぶことが大切です。

また、さらに体力が弱く、胃腸が弱い、気分がすぐれないといった方には、香蘇散という風邪の漢方が適することもあります。

同じ「風邪のひき始め」でも、葛根湯・桂枝湯・香蘇散では向いている体質が違います。「とりあえず葛根湯」ではなく、自分の体力や汗の有無、胃腸の状態などを確認して選ぶことが漢方では大切なのです。


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