生薬の雑学

生薬は「組み合わせ」で働きが変わる

生薬の組み合わせ

漢方薬の多くは、一つの生薬だけではなく、いくつもの生薬を組み合わせて作られています。

古い中国の薬物書では、生薬同士の組み合わせについて、次のような考え方が整理されていました。

相須(そうす):似た働きを持つ生薬を組み合わせ、働きを高める
相使(そうし):異なる生薬を組み合わせ、一方の働きを助ける
相畏(そうい):組み合わせることで、好ましくない作用を抑える
相悪(そうお):組み合わせることで、働きが弱まる

つまり漢方は、「この生薬にはこの作用がある」という足し算だけではありません。誰と誰を組み合わせるかによって、処方全体の性格が変わるところがおもしろいのです。

同じ生薬が入っていても、組み合わせや分量が違えばまったく別の漢方薬になります。そのため、漢方薬を選ぶときには処方名だけでなく、その方の症状や体質に合っているかを見ることが大切です。

芍薬はなぜ「薬の中の薬」?

芍薬の根っこ

「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」。美しい女性を表す言葉として、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

芍薬(シャクヤク)は観賞用の美しい花として知られていますが、漢方では根の部分を生薬として利用します。

漢方では、筋肉の緊張や痛みをやわらげたり、「血」に関係する不調を整えたりする目的で、さまざまな処方に配合されています。女性の冷えやむくみ、月経に伴う不調などに用いられる当帰芍薬散にも、その名のとおり芍薬が配合されています。

芍薬の代表的な成分として知られているのが「ペオニフロリン」です。現在では、この成分をはじめ芍薬に含まれるさまざまな成分について、鎮痛や筋肉の緊張などとの関係が研究されています。

美しい花を楽しむだけでなく、その根が昔から薬として大切に使われてきた――。芍薬は見た目にも中身にも、興味深い植物なのです。

256歳?クコの実と長寿伝説

仙人とクコの実

中国には、李青雲(り・せいうん)という人物が「256歳まで生きた」とする有名な長寿伝説があります。

もちろん、256歳という年齢が史実として確認されているわけではありません。ただ、長寿の人物として語り継がれる中で、彼が好んでいたものの一つとして登場するのがクコの実です。

クコの実は、杏仁豆腐などにのっている赤い実としてもおなじみですね。漢方では「枸杞子(クコシ)」と呼ばれる生薬として利用されてきました。

「クコを食べれば長生きできる」という話ではありませんが、何百年も前から食材としても生薬としても親しまれてきたことを考えると、長寿伝説と結びついたのも少し分かる気がします。

漢方には、このように歴史や伝説と一緒に受け継がれてきた生薬がたくさんあります。

桃の種が漢方に?「桃仁」の話

血行の悪い女性と桃の種

中国では古くから、桃は長寿や魔除けと結びついた縁起のよい果物として親しまれてきました。日本の「古事記」にも桃が登場するなど、桃にはさまざまな伝説が残っています。

そして漢方で使うのは、甘い果肉ではなく桃の種です。

桃の種を乾燥させた生薬を「桃仁(トウニン)」といいます。漢方では「血」の巡りが滞った状態、いわゆる「瘀血(おけつ)」を整える生薬として、女性の月経に伴う不調などに用いられてきました。

桃仁を含む代表的な漢方には、桂枝茯苓丸や、甲字湯があります。

普段おいしく食べている桃。その種が漢方では大切な生薬になると思うと、少し不思議ですよね。

大黄はなぜ「将軍」と呼ばれる?

お腹がすっきりする

大黄(ダイオウ)は、便秘に使われる生薬としてよく知られています。

昔の中国では、その力強い働きから大黄を「将軍」にたとえることがあり、大黄一味を用いる「将軍湯」という呼び名も伝えられています。

大黄には腸の動きを促す成分が含まれており、現在でも便秘に用いられる多くの漢方薬に配合されています。

その代表的な処方の一つが、大黄と甘草という2種類の生薬からなる大黄甘草湯です。便秘や、便秘に伴うお腹の張りなどに用いられます。

「将軍」という名前からも、昔の人が大黄の力強さをどのように感じていたのかが伝わってきますね。

杏仁は「あんずの種」

あんずと咳

杏仁(キョウニン)と聞くと、「杏仁豆腐」を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

漢方でいう杏仁は、アンズなどの種を生薬として利用したものです。

杏仁は、咳や痰を伴う症状に使われる漢方薬に配合されることが多く、風邪の初期に使われる麻黄湯や、強い咳や喘鳴などに用いられる麻杏甘石湯にも含まれています。

いつもはデザートの名前として耳にしている「杏仁」が、実は咳の漢方に欠かせない生薬の一つというのもおもしろいところです。

紫蘇は漢方にも使う|香蘇散

食中毒の人に紫蘇をあげる人

お刺身の横に添えられたり、薬味に使われたりする紫蘇(シソ)。実は、漢方でも使われています。

紫蘇という名前には、「昔、食中毒で苦しんでいた人に紫色の草を与えたところ蘇ったため、“紫蘇”と呼ばれるようになった」という伝説も残されています。

漢方では、紫蘇の葉を「蘇葉(ソヨウ)」と呼びます。蘇葉を配合した代表的な漢方が、香蘇散です。

香蘇散は、体力があまりなく、胃腸が弱く、気分がすぐれない方の風邪の初期などに用いられます。蘇葉のほか、香附子、陳皮、甘草、生姜という5種類の生薬からなる比較的シンプルな処方です。

葛根湯などとは異なり麻黄を含んでいないことも、香蘇散の特徴の一つです。ただし、漢方薬は「麻黄が入っていないから誰にでも安全」というわけではなく、体質や症状に合わせて選ぶことが大切です。

フェンネルも生薬?「茴香」と安中散

フェンネル

魚料理やピクルスなどの香りづけに使われる「フェンネル」をご存じでしょうか。

フェンネルは日本では「茴香(ウイキョウ)」と呼ばれ、スパイスとして使われるだけでなく、漢方薬の生薬としても利用されています。

この茴香を含む代表的な漢方が、安中散です。

安中散は、比較的体力がなく、胃痛や腹痛があり、胸やけ、げっぷ、胃もたれ、食欲不振、吐き気などを伴う方に用いられます。

茴香のほかにも、桂皮、延胡索、牡蛎、縮砂、甘草、良姜など、香りや辛味を持つ生薬が組み合わされています。

普段はキッチンにある「スパイス」と、薬局で使われる「生薬」。意外と近い存在なんですね。

当帰の名前にまつわる物語

当帰で元気になった女性

女性の漢方でよく登場する生薬の一つが「当帰(トウキ)」です。

当帰の名前には、昔、病気のため実家へ戻った女性が当帰を飲んで元気になり、再び夫のもとへ「当に帰るべし」と願ったことから名付けられた――という伝説があります。

名前の由来には諸説ありますが、「帰る」という文字が入っていることから、このような物語が長く語り継がれてきたのでしょう。

当帰は、漢方では「血」を補い、巡りを整える目的で多くの婦人科系の処方に配合されています。

例えば、冷えやめまい、むくみ、月経に伴う不調などに用いられる当帰芍薬散にも、当帰が配合されています。

一つの生薬の名前にまで物語が残っているのも、長い歴史を持つ漢方ならではですね。

ナツメは漢方では「大棗」

ナツメ

ナツメは、中国や韓国などではそのまま食べたり、お茶や料理に使ったりする身近な果実です。

漢方では、ナツメの果実を「大棗(タイソウ)」という生薬として使います。

大棗はさまざまな漢方薬に配合されており、例えば葛根湯防已黄耆湯小建中湯補中益気湯などにも使われています。

漢方では、胃腸を支えたり、ほかの生薬との働きを調和させたりする目的で使われることが多い生薬です。

食べ物として親しまれているナツメが、これほど多くの漢方薬に入っていることを知ると、漢方が少し身近に感じられるのではないでしょうか。

サフランとサフラワー、実は別物

サフランとベニバナ

パエリアを黄色く美しく彩る「サフラン」。そして、よく似た名前の「サフラワー」。同じ植物だと思われがちですが、実はまったく別の植物です。

サフランはアヤメ科の植物で、生薬として使うのは花の「柱頭」と呼ばれる部分です。

一方、サフラワーはキク科の「ベニバナ」。漢方では花を「紅花(コウカ)」という生薬として使用します。

紅花は、漢方では「血」の巡りを整える目的で使われる生薬の一つです。紅花を含む代表的な漢方に、通導散(つうどうさん)があります。

通導散は、比較的体力があり、下腹部に圧痛があって便秘しやすい方の月経不順、月経痛、更年期障害、腰痛、便秘などに用いられます。

「サフラン」と「サフラワー」。名前はよく似ていますが、生薬としても植物としても別物、と覚えておくと分かりやすいですね。

「附子」と「麻黄」|子どもに使うときは?

附子と麻黄

漢方薬に使われる生薬の中には、使う量や体質に特に注意が必要なものがあります。その代表が「附子(ブシ)」と「麻黄(マオウ)」です。

附子は、トリカブトの根を適切に加工して生薬にしたものです。漢方では身体を温めたり、冷えを伴う痛みなどに用いられますが、作用が強いため、自己判断で使用するものではありません。

附子を含む漢方の一つに八味地黄丸があります。

一方、麻黄は風邪、鼻炎、咳、喘鳴などに用いられるさまざまな漢方薬に配合されています。

例えば、葛根湯葛根湯加川芎辛夷小青竜湯防風通聖散麻杏甘石湯などです。

麻黄を含む漢方薬の中には小児にも用いられるものがありますが、年齢による用量や服用できる年齢は製品によって異なります。また、動悸や発汗、不眠などが現れる場合もあります。

「漢方だから子どもにも安心」と一括りにはせず、特に小児に使用する場合は、年齢や体重、症状を確認して医師や薬剤師に相談しましょう。

漢方・ハーブ・アロマは何が違う?

アロマと女性

「自然の植物を使う」という点では、漢方、ハーブ、アロマはよく似ています。でも、実際には使い方も位置づけもかなり違います。

漢方薬は、複数の生薬を決められた組み合わせで配合した医薬品です。植物だけでなく、鉱物や動物由来の生薬が使われる処方もあります。医薬品として販売される漢方薬には、それぞれ認められた効能・効果や用法・用量があります。

ハーブは、植物の葉、花、種などをお茶や食品、香辛料などとして利用するものが中心です。ハーブの中にも薬理作用を持つものがあるため、「天然だから副作用がない」というわけではありません。薬との相互作用やアレルギーに注意が必要なものもあります。

アロマテラピーでは、植物から取り出した「精油(エッセンシャルオイル)」を主に香りとして利用します。精油は植物の成分が濃縮されているため、原液をそのまま皮膚につけたり、自己判断で飲んだりすることは避ける必要があります。

漢方、ハーブ、アロマ。それぞれ得意な使い方が違います。大切なのは「自然のもの=何をしても安全」と考えず、それぞれの特徴を知って上手に取り入れることです。

生姜と乾姜はどう違う?

生姜と乾姜

「ショウガは身体を温める」とよくいわれますが、漢方では同じショウガでも「生姜(ショウキョウ)」と「乾姜(カンキョウ)」を使い分けます。

少しややこしいのですが、漢方でいう「生姜」は、スーパーで売られている生のショウガをそのまま指しているわけではありません。日本薬局方では、ショウガの根茎を生薬として「生姜」としています。

一方の「乾姜」は、ショウガの根茎を湯通ししたり、蒸したりして加工した生薬です。

加工方法が変わることで含まれる成分のバランスにも違いが生まれ、漢方では処方の目的に合わせて使い分けられています。

同じショウガなのに、加工の仕方によって別の生薬として扱われる――。これも漢方のおもしろいところですね。

オケラが生薬に?白朮と蒼朮

むくんだ足首を気にする女性

漢方薬の構成生薬を見ていると、「白朮(ビャクジュツ)」や「蒼朮(ソウジュツ)」という名前をよく見かけます。名前も見た目もよく似ていますが、実は日本薬局方では別々の生薬として定められています。

白朮はオケラまたはオオバナオケラの根茎、蒼朮はホソバオケラやシナオケラなどの根茎を用います。

どちらも漢方では、胃腸の働きを助けながら、身体にたまった余分な「水」をさばく目的で使われることの多い生薬です。そのため、むくみ、めまい、胃もたれなど、「水」の巡りが関係する症状に使われる漢方薬によく登場します。

では、なぜこんなによく似た生薬があるのでしょうか。

昔の漢方の書物では、白朮と蒼朮を区別せず、単に「朮(ジュツ)」と記されていることがあります。その後、長い歴史の中で植物の種類や性質が整理され、現在の日本では白朮と蒼朮を分けて扱うようになりました。

同じ「朮」から始まった生薬でも、現在ではきちんと使い分けられている――。生薬の名前一つをとっても、漢方の長い歴史が見えてきますね。

甘草はなぜ多くの漢方に入っている?

甘草

漢方薬の構成生薬を見ていると、「また入っている!」と思うほどよく登場する生薬があります。その代表が甘草(カンゾウ)です。

甘草は、その名のとおり甘味のある生薬です。咳やのどの痛み、筋肉のけいれんなどに用いられるだけでなく、漢方では、ほかの生薬の働きをまとめ、処方全体のバランスを整える役割も担うと考えられてきました。

例えば、便秘に用いられる大黄甘草湯は、名前のとおり大黄と甘草のわずか2種類からできた漢方薬です。腸を動かす大黄に甘草を組み合わせた、とてもシンプルな処方です。

このように、甘草は多くの漢方薬で活躍する「名脇役」のような存在です。しかし、たくさんの漢方に入っているからといって、たくさん摂っても大丈夫というわけではありません。

甘草を含む漢方薬を複数一緒に服用したり、長期間多く服用したりすると、まれに「偽アルドステロン症」が起こることがあります。むくみ、血圧の上昇、手足のだるさや筋力低下などがみられることがあるため、複数の漢方薬を併用するときには甘草の重複にも注意が必要です。

主役として働くこともあれば、ほかの生薬を支えることもある甘草。漢方薬の構成生薬を見かけたら、「ここにも甘草が入っている!」と探してみるのも面白いかもしれません。

私たちの身近な食べ物や植物の中にも、漢方に使われている生薬はたくさんあります。「これは何のために入っているんだろう?」と構成生薬を見てみると、漢方薬が少し身近に感じられるのではないでしょうか。

漢方薬は、同じ症状でも体質や症状の組み合わせによって選ぶ処方が異なります。どの漢方が自分に合うのか迷われましたら、お気軽に薬剤師へご相談ください。


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